みなさんは「ポエトリー・リーディング」という言葉をご存じだろうか。直訳すると「詩の朗読」である。
近年ではメディアなどを通じてよく目にする、耳にする機会が増えた方も多いと思うが、「ポエトリー・リーディング」と一口に言っても、そこには様々なスタイルが存在する。
ビートを流したラップ調のもの (ポエトリー・ラップ)や、オケなしの完全な朗読、また弾き語りで歌唱方法は朗読のもの、 普段書き綴った詩や日記を語るもの、完全即興の詩の朗読など、その表現方法は多岐にわたる。
今回は名古屋を拠点に活動し、朗読の競技イベント等も企画するクノタカヒロ氏に現行の名古屋のポエトリー・シーンについて話を伺った。


クノタカヒロ
*注釈、解説: 鈴木陽一れもん
INTERVIEWER
竹山 陽介 (STAY DUDE COLLECTIVE)
早速ですが、クノ氏とは2023年に名古屋・納谷橋で定期開催されているMCバトルのイベントで知り会いました。 その時は失礼ながらポエトリーの方とは存じずバトル出演のラッパーと思っており、のちにポエトリーを基調とするアーティストと知りました。
本題に入る前に、クノ氏の自己紹介をお願いいたします。
あらためて貴重な機会をありがとうございます。
名古屋市内の私立高校で国語の教諭をつとめるかたわら、詩作や、音源の制作、イベントの企画などに関わっているクノタカヒロと申します。本日は宜しくお願いします。
なるほど!国語の教諭をされておるとのこと、とても腑に落ちました! 日本のポエトリー・リーディングというと不可思議/wonderboy氏や狐火氏、神門氏を真っ先に思い浮かべる方が多くいると思います。
私の知識が浅く申し訳ないのですが、それまでは各地のシーンの情報はもとより、上記のアーティストやLOW HIGH WHO?周辺、観音クリエイション氏のアルバムの客演アーティストの作品などを少し聴いたことがある程度の知識でした。
そんななか偶然関東のBROKEN LIFEというバンドで活動している友人が「胎動」というポエトリーを交えたイベントを行っており、このようなシーンが各地にあることを知りました。
そこで質問なのですが、名古屋の現行のポエトリー・シーンの土台/基盤が整い始めたのはいつごろでしょうか。
また、その当時から活動されている名古屋のアーティストがいらっしゃいましたら教えてください。
「日本のポエトリー・リーディング」についての定義、とりわけ「プローズ」と「ポエトリー」、「ラップ」と「リーディング」の棲み分け(*1)については私も作品や活動を通じて探求を続けているところですが、いま竹山さんの描かれたイメージは多くの方々が共有可能なものだと想像できます。
またご質問にお答えする前に、私が本格的にクノタカヒロとしての活動を始めたのが2020年の暮れから2021年の明けであるという事実も先に共有しておいた方が良いかもしれません。
それ以前の歴史について学んだり伝え聞いたことは数多ありますが、それらを語るには経験も資格も有していないと思うのが正直なところですね。
(*1) 「ポエトリー・リーディング」を直訳すると「詩の朗読」になりますが、「詩」と「散文」や、「朗読」と「ラップ」は本来それぞれ別のジャンルのはずです。「詩の朗読」を体現した作品や活動とは何か。あえてその探求は今日も続いています。
(注)鈴木陽一れもん
戦後ジャズとのセッション朗読や、それ以前太古の昔 (文字が発明されるより前) から詩を声に出す根源的表現は在ったはずです。
現行の名古屋ポエトリー・シーンに直結する基盤となったのは恐らく2000年頃の 東京ポエトリー・ムーブメント。
当時の名古屋では桑原滝弥さんが今池TOKUZO等で、関東関西からのゲストと地元詩人による朗読ライブを定期開催していました。その頃から現在まで名古屋で活動し続けているのは江藤莅夏さんと私(れもん)くらいかと思いますが、あまり界隈に交わらず個人単位で朗読会を続けている方もいらっしゃいます。
ありがとうございます。
それではクノ氏が活動を開始された2020年下半期からのお話に焦点を当てさせていただきたく思います。
2020年は日本国内はおろか世界中で、いわゆるコロナ禍の最中だったかと存じます。
ポエトリーのアーティストはバンドやユニット、グループではなく個人で活動されている方が多いと思うのですが、
コロナ禍当時、名古屋のポエトリーシーンのコミュニティではどのように各々活動や発信をされていたのでしょうか。
クノ氏の経験談も含め、周囲のアーティストの動きで覚えている物事があれば教えてください。
2021年に刊行された『巣ごもり時代の文学』の巻頭言で、当時の名古屋大学国際教育交流センター長であった長畑明利氏が触れているように、コロナ禍とは結果的に「文学に立ち返る人たち」や「家に閉じこもる状況を利用して創作に向かった人」を増やす契機だったのかもしれません。
かくいう私も、生徒たちの姿が消えた学校の内外で、教員や個人としての在り方を問い直すために、コロナ禍に創作活動を再開した人間のひとりでした。
分散型オンライン巣ごもりフェス『MUSIC DON’T LOCKDOWN』を夜な夜な視聴したり、オフライン/オンラインで詩の朗読(あるいはパフォーマンス)を競うコンテスト『KOTOBA Slam Japan』や『NSWS』、『ポエトリー・ナイトフライト』にエントリーしたり。
それらのイベントを通じて「ポエトリー」というジャンルや、名古屋で「リーディング」をする人たちや場の存在を認知していったように記憶していますね。
社会や大会が規定した「制限」の中で、オリジナルの作品を持ち寄り、ステージ上やオンライン上でパフォーマンスを披露する。
自他の作品を競わせながらも認めあう彼らの姿に大きな感銘を受けたことを覚えています。
(注)鈴木陽一れもん
『MUSIC DON'T LOCKDOWN』は「竹山さんが先述された胎動ikomaさんと、いとうせいこうさん
らによる企画」、『KOTOBA Slam Japan』は「日本各地方大会の勝者が集う全国大会で優勝すると、数十ヵ国参加の世界大会へ日本代表として進出できるスラム」、『NSWS』は「ポエトリーに限らずオールジャンル表現で競い合う、名古屋開催のスラム」、『ポエトリー・ナイトフライト』は「京都の詩人choriが立ち上げた、投げ銭ジャッジ方式のスラム」ですね。
あの時期はたしかに、ジャンルを問わず多くのアーティストが新たな発信方法を模索したり、己の表現や活動方法を見直す期間でもありました。
ローカルシーンの中でもネットを通じてのアーティスト同士の新たな出会いや、web上での表現の場を見出したりと、あらゆる人々がオンラインの力をフル活用していた覚えがあります。
2022年夏頃より、国内の多くのヴェニュー全般(ライブハウスやクラブ、スタジオ、ライブバーなどの会場全般)でもようやく本来の営業を取り戻し始めたと思うのですが、 残念ながらコロナ禍で営業を閉じてしまった会場も全国に多々あると思われます。
コロナ禍以降の現在についてお伺いしたいのですが、名古屋ではどのような場所でポエトリー・シーンの皆様はライブなどの活動を行っているのでしょうか。
仰る通り、オンライン上でのイベントはもちろん、無観客で開催されたイベントの様子をアーカイブとして公開していただいたり。
先の見えない状況の中で、そのような空間や場所をつくり続けていただいた方々のおかげで、現在の文化の存続があると感じています。
ご質問に戻ると、具体的には池下の小劇場「シアターココ」さん・御器所の音楽居酒屋「なんや」さん・新栄のブックカフェ「CENTRE」さん・同じく新栄のピアススタジオ「69syndicate」さん・栄のライブシアター「金色鮫」さんなどでポエトリーのイベントが開催されている印象です。
栄のライブハウス「TIGHT ROPE」さん・今池のライブハウス「Seven Bridges Road」さんなどで開催されているイベントもありますが、ライブハウスほどの音響機材が整っていなくてもイベントにチャレンジできる。
この裾野の広さはポエトリー・リーディングというジャンルの大きなつよみだと思いますね。
(注)鈴木陽一れもん
ここ数年はスラムイベント中心なイメージがありますが、かつては勝ち負けのないオープンマイク(自由参加の朗読会)が主流で、その頃は街の小さな喫茶店やカフェレストランで食事をしながらのイベント(気軽に参加できる雰囲気で、実験的な新しい挑戦もしやすい)が多かった印象です。
たしかにライブハウス以外の場所でもポエトリーのイベントが開かれている印象があります。
ちなみに、挙げていただいた会場等をベースに、現在の尾張圏内ではどのようなアーティストが活動されておりますでしょうか。
いまパッと想像しただけでも30名以上の姿が浮かびました。
ただ今のご質問にとてもお答えしづらいのが、いわゆる「名古屋」や延いては「日本」の「ポエトリー・リーディング」の実態だと思います。
ふだん詩を書くこと(詩作)をメインにされている方、演劇やお笑いなどの芸能ジャンルで活動されている方、ヒップホップや弾き語りなどの音楽ジャンルで活動されている方など、イベントへの参加者の層は多岐にわたりますが、何をもって「ポエトリー・リーディング」の「アーティスト」であるか/ないかを判断する判然とした基準がない。それがジャンルの現状だと感じていますね。
言い方を変えれば、そのような現状だからこそ、参加者の多くがこのジャンルをより活性化させたい、より広い層に認知させたいと望むのかもしれません。
(注)鈴木陽一れもん
文芸、演劇、音楽、ダンス、絵画、映像など、バックボーンが何であれ誰でも声を出せば成り立つ分野がポエトリー・リーディングなので、いつの時代にも色んな人が現れ、 そして去っていきましたね(苦笑)。
たしかに、私の周りのバンドマンやMCユニットのメンバーが別の名義などでクノ氏主催のイベントに参加しているのを見かけますし、 現状二度しか氏のイベントに伺えていませんが、それでも参加者の皆様の各々のバックグラウンドが少しづつ垣間見えるスタイルで、 それまで私が知っている普段の彼等/彼女等とは違う一面を見ることができたのはとても印象深く覚えています。
この流れでクノ氏主催のイベントやスラムについてお伺いします。
ラップのMC BATTLE、レゲェのDEEJAY CLASHのように、ポエトリーにもSLAM (以下スラム) という世界大会規模もある競技が存在します。
名古屋ではクノ氏が主催するイベント「feat.」でもイベント内容の一環としてスラムの催しを行っております。
入門として、現在Youtube上で観ることができるポエトリー・スラムの名演、ベストバウトがありましたら2つほどご紹介/解説いただきたいです。
ひとまず「3分なら3分という制限時間内に、各エントリー者がパフォーマンスを披露して、観客の審査によって、その日の勝敗を競う文化」を「スラム」と定義付けた上で。
挙げていただいた例をなぞれば、スラムという文化の特徴はMC BATTLEよりもDEEJAY CLASHの方により近しいのではないかと最近は感じています。
即興でパフォーマンスをされる方も中にはいらっしゃいますが、大半の方が自身のオリジナル作品を持ち寄って、相手の作品と競わせあう。
勝敗のつくコンテストでありながらも、ライブショウケース的な要素がつよいのもスラムの魅力だと思いますね。
ご質問に戻ると、1つは「KOTOBA Slam Japan 2022」の名古屋大会の決勝戦。
当日は16名の参加者が全国大会への切符を目指してスラムに臨まれたのですが、決勝は4名の進出者の全員(由良圭人・アラミント・ししど・江藤莅夏)が偶然にも女性のパフォーマーであった、かつその4名の得点差が0.4ポイント内に収まった稀有な場面だったと記憶しています。会場の盛り上がりも尋常ではなかった。
もう1つは「Def Poetry Jam」内でのSaul Williamsのパフォーマンス。
スラムではなく、ゲストライブの1場面だと思いますが、手元から地面まで垂れた紙の台本を、延々と詠み上げていくSaul Williamsのパフォーマンスがひたすらに格好良い。
他ジャンルのアーティストに「ステージに台本を持ち込むのはどうなのか」と問われた際には、決まってこのパフォーマンスを紹介するようにしています。
(注)鈴木陽一れもん
私から紹介したいのはSSWS (新宿スポークンワーズスラム)第4期グランドチャンピオン大会での不可思議/wonderboy 『世界征服やめた』 これはスラムで勝つ為に創ったと本人が言っていました。
映像越しでも伝わってくるような高い熱量で叫びまくる事を、最初から想定して創られた作品で圧巻です。
同じくSSWSの第2期グラチャン大会決勝での馬野幹(こちらは現在、映像が観られるサイトないかもしれません)シンプルなアカペラ朗読で音楽や映画にも負けない感動が生まれるんだと衝撃を受けました。
主催の詩人/ミュージシャン さいとういんこさんが総評で 「SSWSやってきて良かった」とコメントしたのも忘れられません。
2009.8.1 @新宿MARZ SSWSグランドチャンピオントーナメント
ありがとうございます!
そんなスラムの演目を交えたクノ氏主催の「feat.」では、 毎回ラッパーやダンサー、歌人(短歌)、SSW、アイドル、大喜利など他分野のアーティストをゲストに招いて、 一口にポエトリーだけでなく様々な切り口を交えて開催されております。
このクノ氏の交友関係のレンジの広さにも驚かされますが、とても面白く、またポエトリーへの新たな導線にもなる試みだなと私は感じています。
どのような意図や意思でこういった他分野をクロスオーバーしようと思い立ったのでしょうか。
現在の「feat.」は7名の運営陣によって毎回の企画の内容を練ったり、ゲストライブの人選を決めたりしているのですが、スタート時の理念のひとつが「スラムを知る/楽しむ人を増やして『ワンマンスラム』や他のスラムに関わる人口を増やしたい」といったものでした。
仰っていただいたように、このイベントをきっかけに「ポエトリーへの新たな導線」や、ジャンルを超えた別の交流が発生するなら、それは望外の喜びでもあります。
また、これは活動を始めた時からの個人的な願いなのですが、とにかく「ポエトリー・リーディング」の可能性や魅力をジャンルの内外に伝えたい。
2021年から、数年間その願いとともに音源やMVの制作を続けてきて、たしかな手応えを得ることができたので、次は現場のイベントでその願いをかたちにできたらと考えています。
最後に、4月に1周年を迎えた「feat.」の次回告知、また周囲のイベントで「これも併せてチェックしてほしい!」というものがありましたらご紹介ください。
2、3ヶ月に1回のペースで、今池にあるSeven Bridges Roadさんというライブハウスで『feat.』というイベントを開催しています。
次回の開催が7/19(土)、特集が「朗読」に決定しまして、毎回「ポエトリー・スラム」と「ゲストライブ」と「いちジャンルの特集/他ジャンルとのfeaturing」といった3つのコンセプトで企画を練っているので、ぜひとも1度遊びにきてほしいです。
願わくば、その空間で新たな「推し」を見つけて、数珠繋ぎ的に「推し」の他の作品やイベントをチェックしていっていただけたら、主催冥利につきますね。
『feat.』にかぎらず「名古屋のポエトリー」が、そんな存在であり続けられるように、これからも創意にあふれた企画や、風通しのよい空間を維持していきたいと思います。
(注)鈴木陽一れもん
KSJ今年の名古屋大会は6/29(日)池下・シアターココ。
電流ビリビリスラムなどトンチキルールの裏名古屋大会は9/20(土)栄・金色鮫。
れもん主催のNSWS次回予選は7/27(日)御器所・なんや。
それぞれ、ご観覧予約、お問い合わせ、お待ちしております。

